2020年11月06日

近況報告2019≫ なぜ猛禽類のメスはオスよりも大きいのか?

バードリサーチの研究支援プロジェクト(2019)で、皆様からご支援いただいている調査の近況報告が届きました。

澤田さんと江指さんによる
なぜ猛禽類のメスはオスよりも大きいのか?
 −オスの小ささ、メスの大きさ、を生み出す選択圧を探る−
です。

猛禽類では雌が雄よりも大きい体サイズの性的二型があります。雄は小さい方が、雌は大きい方が子孫を残すのに有利だ、ということがスペインのオオタカの研究で示されています。しかし、子や孫の代の生存率や繁殖成績をみないと結論は出せません。この調査研究プランは、南大東島のリュウキュウコノハズクの19年分のデータを使って、この問いに答えを出そうというものです。(詳細はコチラ

いただいた近況報告をご紹介します!

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みなさま、こんにちは。北海道大学理学院博士3年の澤田明と修士1年の江指万里です。このたびは調査研究支援プロジェクトでのご支援ありがとうございました。

調査地の沖縄県南大東島より経過と近況の報告をいたします。

私たちは「なぜ猛禽類のメスはオスよりも大きいのか?」という問いを、今回の調査研究支援プロジェクトのテーマとしました。この問いに答えるために、約20年にわたり標識調査と繁殖調査が続けられている南大東島のリュウキュウコノハズク(亜種ダイトウコノハズク)個体群を研究材料に用いました。

これまでに蓄積された膨大な繁殖データや生存記録、さらに今年の調査で同様に集めたデータから、たとえば「小さいオスは多くの子を残せるのか?」とか「大きいメスは長生きできるのか?」などといった仮説の検証に取り組んでいます。

こうした仮説が支持されれば、オスが小さく、あるいはメスが大きくなるに進化を駆動する力(選択圧)の存在が示唆され、性的二型の逆転の説明が可能になるからです。

今年の繁殖調査では約90か所の巣から繁殖の記録を行いました。2月末から7月初めの約4か月の間、天気や人間都合にかかわらず定期的に巣箱や自然の樹洞を見回る調査は、単純でありながらも大変な調査です。

抱卵s.jpg
巣箱で抱卵中のメス

今年は繁殖期の中盤に長雨が続いたこともあり、多くのヒナが死んでしまいました。このような巣間で繁殖の成功度合いに違いが生じたときには、親鳥の体の大きさに応じた繁殖の上手さみたいなものがデータに現れている可能性もあります。たくさんのヒナが死んでしまったのは残念ですが、今年得られた生態学的には重要なデータを今後の解析に活かせたらと思います。

死亡雛s.jpg
この巣箱ではヒナ3羽のうち2羽が死んでしまいました

繁殖調査に並行して捕獲と形態計測も行いました。一羽一羽行う地道な形態計測の積み重ねが重要なデータとなっていきます。

このはs.jpg
計測s.jpg
捕獲標識され、江指に計測されているダイトウコノハズク

この1,2カ月はデータをあれこれいじっています。まだいろいろ検討すべきことがあるので踏み込んだことは言えませんが、小さいオスが有利そうという結果は出てきています。

データいじりs.jpg
南大東島の研究室でパソコンに向かう澤田

今年は台風10号が南大東島の森林を大きく破壊しました。南大東島は台風中継で有名な島でもあります。台風をうまくしのいだり、台風後の良くない餌条件を生き延びたりするうえでも、体の小ささには意味があるかもしれません。今回の結果は発展性がありそうです。台風後の影響に関しては研究室の後輩の中村さんや熊谷君が中心となって調査を始めてくれています。そちらの今後の展開も楽しみです。

posted by ばーりさ at 15:08| 研究支援(近況報告)

2020年10月27日

近況報告2019≫ 愛知県矢作川支流、籠川両岸の樹木伐採工事に伴う生息鳥類の変化調査

バードリサーチの研究支援プロジェクト(2019)で、皆様からご支援いただいている調査の近況報告が届きました。

渥美美保さんによる
愛知県矢作川支流、籠川両岸の樹木伐採工事に伴う生息鳥類の変化調査
です。

この調査研究プランは、河畔林の伐採が進められている籠川で、工事前から行っていた日々の記録をもとに、工事が終わるまで継続して調査を続けることで、鳥たちにどんな影響が出るのかを明らかにしようというものです。(詳細はコチラ

いただいた近況報告をご紹介します!

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籠川の樹木伐採および橋梁補強工事開始から1年、完了から5か月が経過しました。計画通り3月から月に10回の観察を続けています。コロナ禍と猛暑以外に、2つの点で想定外な状況が生じました。1つは、すべてと聞いていた樹木の伐採範囲は、実際には全体の5-6割ほどに留まったこと。もう1つは、伐採前の観察データが少なかったこと。伐採で視界が良くなり、岸辺の野鳥が見つけやすくなったことや、調査者の野鳥観察眼が鋭くなっている可能性も関係しそうですが、現時点で伐採の悪影響は限定的と感じます。観察を来年2月まで続けつつ、残りの期間は観察記録を比較し、数値で影響を示す難しさに直面しそうです。


調査風景

画像1s.jpg


●調査方法

観察した都度、以下の手順で結果を整理。

1. 帰宅後、観察した野鳥を紙に書き出す(下図)。 

画像2.JPG

2. 種ごとに場所(水辺、沿岸の緑地帯、沿岸の農耕地)で色分けしてエクセルに入力(下図)。漏れがないよう、紙のリストに転記済みのチェックマークをつけながら行う。

画像3.JPG画像3.JPG



●今後の方向性

これまでの観察から予想される伐採の影響

・悪影響を受けた種: ウグイス、コジュケイ、カシラダカ

・好影響を受けた種: コチドリ、セッカ、ヒクイナ、ノビタキ、セキレイ類

⇒これらを数値で裏付ける


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posted by ばーりさ at 14:48| 研究支援(近況報告)

2019年12月12日

近況報告2018≫ 巣箱設置におけるカラ類等の長期的センサス

バードリサーチの研究支援プロジェクト(2018)で、皆様からご支援いただいている研究の近況報告が届きました。

名城大学農学部野生動物生態研究会による
「巣箱設置におけるカラ類等の長期的センサス」
です。

この調査研究プランでは、カラ類以外にもキビタキも利用できるちょっと特殊な形状の巣箱をつくって、森林性鳥類の産卵数や巣立ち率、繁殖時期の変化などを長期的にモニタリングしていこうと計画していました。(詳細はコチラ

いただいた近況報告をご紹介します!

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中間報告

みなさんこんにちは。名城大学 野生動物生態研究会です。
この度はバードリサーチの研究支援対象に選ばれご支援していただきありがとうございます。無事に野外での調査は終了し、残りは分析をあと少し残すのみとなりました。この研究結果は、学部4年の岸が卒論としてまとめています。簡単ではありますが調査の様子など感想を交えながら近況を報告させていただきます。

巣箱たて.jpg トラップ.jpg
2月の上旬から調査地に60個の巣箱をかけました。調査の簡易化を考えて直接木に掛けるのではなく、ポールの上に設置しました。高さは平均的な男性の顔ぐらいの高さです。

キビタキ卵.jpg
キビタキ 営巣巣箱

シジュウカラ雛.jpg
シジュウカラ  営巣巣箱

ヤマガラ雛.jpg
ヤマガラ 営巣巣箱

初めての取り組みということもあり、小鳥たちが営巣してくれるかどうかさえも分からず最初は不安な日々が続きました。最初に営巣の形跡があったのは3月の16日。シジュウカラの巣作りがスタートしました。

営巣の確認は、巣箱をそっと覗き、親がいないことを確認してから上からスマホで写真を撮って確認します。
その後も、8月の初旬まで営巣が続々と続き、ジジュウカラ5つがい、ヤマガラ7つがい。キビタキ4つがい の計16つがいの営巣巣箱を調べることが出来ました。

ですが、やはり問題もあり、カメラによるモニタリングもしたかったのですがあまりうまくいっておりません。改善が必要です。様々な問題点が見つかった野外調査でとても良い学びになりました。

この特殊な形の巣箱でも十分に対象の小鳥たちを調べることが出来ると分かったので、今後も改善を続けながら継続していきたいと思います。

キビタキ雄.jpg
キビタキ 雄 

カメラモニタリング画像.jpg
カメラによるモニタリング 画像

posted by ばーりさ at 11:45| 研究支援(近況報告)

2019年11月22日

近況報告2018≫ バードバスとセンサーカメラを用いたモニタリング

バードリサーチの研究支援プロジェクト(2018)で、ご支援いただいている「だれでも参加可能なバードバスとセンサーカメラを用いたモニタリング」の中間報告です。

この調査研究プランは、簡単な身近な鳥の調査方法の仕組み作りが目的で、具体的には,庭(バードバス)に訪れる鳥を自動で撮影し自動で結果を送信する仕組みづくりを目指します。

(詳細はコチラ

近況です。

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バードリサーチホームページ内にサイトを開設しています。

2019-11-22.png

今年の5月にバードバスを設置してる方々に、家の周りに来る鳥とバードバスに来る鳥についてアンケート調査を行いました。34名の方にデータを送っていただき、7月末に集計を行ったところ、家の周りでは83種、バードバスでは40種が目撃されていました。家の周りで最も観察された種とバードバスで観察される種に違いがあり、水場を利用しやすい種とそうでない種があるようです。特に、キジバトとドバトは同じハト科でありながら対照的な興味深い結果となっています。(結果はコチラ

現在、東京都清瀬市で稼働しているカメラのほかに、岡山県倉敷市のバードバスでカメラを稼働させています。このカメラは、ビデオだけを撮影するもので、Twitterへの自動投稿を行わず、環境センサーも取り付けていないシンプルな普及型です。8月中旬に設置しましたが、当初二か月近く野鳥の訪問がなく、場所が悪いのか心配しましたが、冬鳥が動き出す10月頃になって、野鳥が渡来するようになりました。現在、シジュウカラ、スズメ、ジョウビタキ、ホオジロ、メジロ、ヒヨドリ、ウグイスが観察されています。ただし、頻度は高くありません。やはり設置する環境は選ばないとダメなようです。

201910230833Kurashiki-BirdBath-jyoubi_Moment.jpgジョウビタキ
201911070809Kurashiki-BirdBath-meji_Moment.jpgメジロ

大雨などの荒天もありましたがカメラ自体はほぼ安定して稼働できるようになりました。

設置募集を行い(応募ありがとうございます)、今後、徐々に設置地域を広げていこうと考えています。

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posted by ばーりさ at 16:43| 研究支援(近況報告)

2019年11月15日

近況報告2018≫ アカモズの生息に適したリンゴ栽培方法は?

バードリサーチの研究支援プロジェクト(2018)で、皆様からご支援いただいている研究の近況報告が届きました。

信州大学の松宮さん、赤松さん、原さんによる
「アカモズの生息に適したリンゴ栽培方法は?」
です。

この調査研究プランは、長野県のリンゴ園に生息しているアカモズを対象に、リンゴの栽培方法が違う農地の間でアカモズの繁殖成績や食物量などを比較し、どの管理方法がアカモズの生息に適しているのか、またその理由について明らかにすることを目的としています。(詳細はコチラ

いただいた近況報告をご紹介します!

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<アカモズの生息に適したリンゴ栽培の方法は?>
中間報告

◆調査概要
 調査は5〜8月に長野県内のリンゴ果樹園で行いました。2015年から継続して行っている繁殖個体数のモニタリングに加え、繁殖成績および捕食者についても調査しました。

◆渡来数は昨年と同程度
例年であればゴールデンウィーク明けにはアカモズが渡来しますが、今年はやや遅く、5月中旬頃でした。4〜5月初旬にかけて気温の低い日が続いたことと関係があるかもしれません。初認が遅く心配しましたが、その後は順調に渡来し、個体数に大きな減少はありませんでした。

◆地域によって異なる繁殖成績
 繁殖成績を調査した結果、地域によっては繁殖に成功するペアが少ないことが分かってきました。特に繁殖成績の低い地域では、半数以上の巣が、卵か雛の間に天敵に捕食さていました。この繁殖成績の低さが栽培方法やその他の環境の違いと関連しているかどうかは現在解析途中ですが、どうやら営巣場所の中でも捕食されやすい場所・されにくい場所がありそうです。

◆明らかになった捕食者
 これまで果樹園におけるアカモズの天敵としてはネコが確認されていましたが、今年の調査でアオダイショウによる巣内雛の捕食を確認しました。ネコに襲われた巣は崩されていたのに対し、アオダイショウに襲われた巣は目立った損傷がありませんでした。繁殖に失敗した巣のうち、捕食者が特定できなかった巣についても、損傷がなく卵や雛だけがいなくなっていることが多くありました。もしかしたら果樹園のアカモズにとってはアオダイショウも大きな脅威となっているのかもしれません。

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雛を捕食したアオダイショウ

◆これからの予定
 個体数は安定しているようで、とりあえず安心しましたが、繁殖成功率が低い地域があることが気になりました。これが今年だけの偶然的なものなのか、毎年そうであるのかは、来年以降の継続的な調査で判断し、場合によっては対策を講じる必要がありそうです。
 現在、繁殖成績と環境条件との関係について解析に差し掛かったところです。テーマであるアカモズの生息に適した栽培方法の解明に向けて解析を進めております。

◆その他
 夏にはアカモズが生息する地域の方々や果樹農家の方々に向けた勉強会&意見交換会を開催しました。参加者からは積極的な質問を頂き、地域の方々の関心の高さに驚きました。また、アカモズの生息地で採れたりんごやその加工品を使って何か保全活動ができないか話し合いを進めております。今後も、地域に根差した保全活動を続けていきたいと思っております。

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勉強会風景
posted by ばーりさ at 15:46| 研究支援(近況報告)