2023年09月08日

群れが複数ある山のイワヒバリ調査2日目(高木)

先月、中央アルプスの木曽駒ヶ岳にてイワヒバリの調査をしてきました、の続きです。2日目は早朝から、雨で終わった初日の調査を忘れさせてくれるような晴天に恵まれました。まだ暗いうちに目覚めましたが、星空を眺めに出かけたらしい登山客の声が外から聞こえてきて、寝過ごしたかと一瞬ヒヤッとしました。出発の準備は昨夜のうちに済ませているので、さっと着替えて、寝具を片付けて、宿泊させてもらった山小屋の戸口に向かいます。まだ乾ききらない登山靴に、乾いた靴下を滑り込ませます。山小屋から木曽駒ヶ岳山頂の南斜面の調査ポイントまでは、ひとつピークを越えて少し歩きます。まだ薄暮の前でしたが、月や星が明るく足もとに不便はありません。昨日、イワヒバリを確認した場所の近くでしたので、声が聞けるかとゆっくり歩きながら耳を澄まして、目を左右に走らせましたが気配は感じられず。そうこうしているうちに、東の雲海の向こうが明るくなり、日の出が近づいてきました。

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八ヶ岳の南の端から太陽が顔を出したところ

目的のポイントに着くころには、太陽の光が地面を照らしてくれるようになりました。イワヒバリが現われるのを待つことにした私は、湿って不愉快な登山靴から哀れな足を引き抜き、大きな石の上で日向ぼっこさせます。太陽光は偉大ですね。じとっと水けを吸った靴下も、乾ききっていなかった登山靴も、朝食を口に放り込んだり、カヤクグリの声に耳を奪われたりしているうちにほとんど乾かしてくれました。いそうだなぁと思った予想はハズレたかな、とあきらめて歩きはじめると、1羽のイワヒバリが顔を出してくれました。あまりこちらを警戒している様子はありませんが、影響を与えないように距離をとって後を追います。しばらくするともう1羽が現われ、2羽が連れ立って飛んでいきます。すると、他からもイワヒバリが飛んできて、大きな岩が集まっているあたりに5羽がゆるく集まって、せわしなく動き回ります。それ以上増えなかったので、どうやら5羽の群れだったようです。5羽がそろっていたのは短時間で、すぐに群れはばらけて各自で餌を探すようでした。
ひとつ確認しておきたかったことは、どれくらい尾根の反対側まで移動するかってこと。尾根を越えられてしまうと、追跡できなくなることが多くなるので、今後、イワヒバリの群れの個体数を調べようとした時に把握が難しくなると思っているからです。確認しやすいよう斜面の下側の登山道から尾根沿いの登山道に場所を移します。イワヒバリが観察されていた側の斜面は比較的緩やかですが、反対側は切り立っています。尾根に近づいてきた2羽のうち1羽は尾根の手前で引き返していきましたが、1羽は尾根を越えて姿を消しました。しかし、すぐに上がってきて尾根から突き出た岩の上などにとまって休むなどしており、ほとんど切り立った側の斜面は利用せずに、しばらくすると緩斜面の方に戻っていきました。

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左の翼を掻いたら、右の翼も掻くべし
北側急斜面に突き出た岩の上にて

この日は晴れていましたので、調査範囲を広げて歩くことに。このあと、木曽駒ヶ岳の北西斜面や、千畳敷カールと呼ばれている山頂からは南に1km以上離れた場所でもイワヒバリを確認しました。2日間の調査で、少し距離の離れた場所4か所でイワヒバリを確認することができました。
過去の他山での研究によると、イワヒバリの群れが守るなわばりは直径200〜500mほどのようです。そのことを考慮すると、今回調査した範囲には、2〜4の群れがいたのではないか、と。確認できた群れの個体数の最大値は5羽だったこと。その他にも探索努力に対するイワヒバリの出現頻度など、来年以降、イワヒバリの総個体数を調べるための調査設計の参考になる情報を集めることができました。

調査の間に、一度、ライチョウの親子に道を塞がれました。足環がついていて、初日に山頂付近で顔を出してくれたのと同じ家族でした。道をあけてもらえるのを待ちながら、ゆっくり写真を撮らせてもらいました。

ライチョウのヒナ親を追う.JPG
親の居場所を声を頼りにして、あとを追うヒナ

ひととおり調査を終えたころ主要な登山ルートが大変なことに。。登山客の増え方に危機感を覚えて、早めに下山しました。案の定、ロープウェーの駅には人があふれており、整理券を受け取ると、1時間待ち、とのこと。バスやロープウェーで標高2,600mまで登ってこれるのは、調査時間の確保にも体力温存にもありがたいのですが・・・。
順番を待っている間に雨が降り出してきました。貴重な晴れ間に調査ができて良かったです。


この調査は、バードリサーチ調査研究支援プロジェクト2022年度のバードリサーチからの調査研究プランとして実施しています。
また、株式会社モンベルより、寄付つきTシャツサポートカードによるご支援もいただいています。
posted by ばーりさ at 08:00| 研究支援(近況報告)

2023年08月24日

群れが複数ある山のイワヒバリ調査1日目(高木)

先日、中央アルプスの木曽駒ヶ岳にてイワヒバリの調査をしてきました。予定よりも随分コースが西にずれてゆっくり緯度してくる台風の通過を待って、日程を調整しましたが、初日は台風に引きつられて寄せてきた雨雲の洗礼を受ける羽目に。
登っている時は小雨でしたが、これは織り込み済み。しっかりと雨具装備を整えて上を目指しました。調査地に着いた時には雨雲も切れて狙い通り。さっそく、山小屋の裏手で2羽のイワヒバリを確認して幸先の良いスタートです。

山小屋裏手のイワヒバリ.JPG
矢印の先にイワヒバリが1羽。

山頂付近で休息しながらイワヒバリを探していると、ライチョウの親子が顔を出してくれました。近くには夜の天敵からヒナたちを守るための保護ケージが設置されていましたので、昨晩はそこに入っていたのかな?などと考えながら見守りました。

ライチョウ用保護ケージ.JPG
ライチョウ親子のための保護ケージ

すると、カヤクグリの声の合間に、イワヒバリらしい声が遠くから一声聞こえました。最初に出会ったのとはおそらく別の群れのはず。声の方向が見渡せる場所に移りましたが、姿は見えず。歩みを進めると、裸地の割合が減ってハイマツが優勢になってきます。耳を澄ましても聞こえてくるのは、ホシガラスのしゃがれ声。時期のせいかやけに賑やかに鳴いていました。ホシガラスたちは、転々とハイマツの間を移動していて、なかなか球果にありつけていないご様子。

ホシガラス木曽駒ヶ岳202308-side.JPG
ホシガラス(左)と、数少ないハイマツの球果。写真の範囲では、うまく成熟していない1個しかなかった。

午後になると雨が再び降り始めましたが、気にもせず調査を続けました。やむかなと期待していたのですが、途中から本降りになってしまい調査できる状況ではなくなったので切り上げることに。その頃には、もう登山者は周りにほとんどおらず、すれ違った一人とずぶ濡れになりながらしばらく立ち話をして別れました。この日は設備のそろっている山小屋に泊まりましたが、悲しいことに登山靴の防水が賞味期限切れ?でしっかり浸透してきてしまっていて、靴下がびしょびしょ。ん〜。まだ十分使えるんだけど、買い替えないといけないのかなぁ。。
ところで、ふもとの駒ヶ根にはソースかつ丼があります。立ち寄ったお店でたらふく食べました。美味しかったですが、量にびっくりしました(笑)

駒ヶ根かつ丼.JPG


この調査は、バードリサーチ調査研究支援プロジェクト2022年度のバードリサーチからの調査研究プランとして実施しています。
また、株式会社モンベルより、寄付つきTシャツサポートカードによるご支援もいただいています。

posted by ばーりさ at 11:38| 研究支援(近況報告)

2021年11月25日

近況報告2020≫ ムクドリが好むねぐら環境の調査 −ヒトとムクドリの共存を目指して−

バードリサーチの研究支援プロジェクト(2020)で、皆様からご支援いただいているバードリサーチのムクドリ調査の近況報告です。

研究支援プロジェクトでは、例年バードリサーチの企画も一つ入れており、今回は「ムクドリが好むねぐら環境の調査
 −ヒトとムクドリの共存を目指して−
」について、皆様からご支援をいただきました。

ねぐら入りしているムクドリをどう追い払うか、ということに主眼を置いたこれまでのムクドリ対策を転換し、人があまり困らない場所にムクドリのねぐらを誘致する方法を考え、ムクドリと人の共存を目指そうという企画です。

今年度の調査では、全国の会員の皆様やバードウォッチャーからムクドリのねぐら情報を募集しました。
これまでのところ、全国から200箇所を超えるねぐら情報をお寄せいただきました。

これまでの成果はムクドリのねぐら調査のページでご覧いただけます。

ねぐら情報は現在も収集中ですので、ムクドリのねぐらを見つけられましたら、ねぐら情報の入力フォームからぜひお送りください!
特に冬季のねぐらについてはまだ情報が少なく、これからの季節の情報をお待ちしております。

これまでの情報をもとに、ねぐら選好性を調べる簡単な解析をした他、東京都や埼玉県、千葉県のムクドリのねぐらでねぐら樹木の計測などの調査を行いました。
樹木の計測にはレーザー距離計を使用して一人でも効率的に調査を進められるようにしましたが、1箇所のねぐらの色々な樹木を計測しているとあっという間に時間が経ってしまいます。

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調査の様子 レーザー距離計で街路樹の幹間距離を測っている様子

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調査道具のレーザー距離計と野帳、愛用のペン


これまでに、計300本を超える樹木を計測し、段々と充実したデータが得られてきました。

現在は主に関東平野のねぐらを対象に計測を行なっていますが、ねぐらや被害の情報が多い関西地方やその他の各地でも計測を重ねたいと思っています。

これまでの結果をいろいろ生きものネット埼玉のサイエンスカフェの話題としてお話しました。
オンライン開催で、ムクドリのねぐら研究をしてこられた越川重治さんや県市町村の職員の方を含む多くの方にご参加いただきました。
ご質問も多く、活発に情報交換できたと思います。
サイエンスカフェということでムクドリの基礎的な生態の説明や、おまけとして街路樹とまちづくりの方針についてなどについてもお話しして、私自身ムクドリとねぐら関連の考えをまとめる良い機会になりました。
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サイエンスカフェの様子

埼玉県や東京都の行政の方とも情報交換を始めており、今後は各ねぐらでの個別の状況も詳しく調べようと考えています。

引き続き皆様からのねぐら情報を募集しておりますので、ぜひよろしくお願いします!


posted by ばーりさ at 11:20| 研究支援(近況報告)

2021年11月22日

近況報告2020≫ 世界遺産平城宮跡で寝るツバメはどこから集まってくるのか

バードリサーチの研究支援プロジェクト(2020)で、皆様からご支援いただいている調査の近況報告が届きました。

なら・ツバメらぼ(旧団体名:奈良ツバメねぐら研究部)による
世界遺産平城宮跡で寝るツバメはどこから集まってくるのか
 −6万羽のねぐら入りルートを探る−
です。

奈良県の平城宮跡のねぐらに集まるツバメの個体数は2010年代前半に増加し今では6万羽にもなるそうです。奈良ツバメねぐら研究部では周辺の他のねぐらの消滅が背景にあるのではないかと考え、どこからツバメが帰ってくるのかを調べています。この調査研究プランでは、大勢の参加を得ながら多地点で帰還するツバメの飛行ルートを調べ、その実態を明らかにすることを目的としています。(詳細はコチラ

いただいた近況報告をご紹介します!

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このたびは研究支援プロジェクトでたくさんの方からのご支援をいただきありがとうございました。

今年もたくさんのツバメが平城宮跡のねぐらを利用し、南へと旅立っていきました。今年のツバメのねぐらの状況とご支援いただいた調査の状況をご報告いたします。

●まずは春ねぐら!
今年も例年どおり4月頃から平城宮跡にツバメが集まり出し、100羽程度の春ねぐらを形成していました。前の冬に刈られたヨシの草丈はまだ低く、膝丈ほどのヨシに止まって眠るツバメの姿がよく見えました。このまま夏に向けて順調にツバメの数が増えていくと思っていましたが、今年はちょっと事情が違っていたようです。
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●ツバメがいない!?
例年であれば、5月の終わり頃にはヨシ原に集まるツバメの数は数千羽になりますが、今年はなぜかツバメが集まってきませんでした。4月に100羽ほどいたツバメは5月初めには数十羽に減り、多くても数百羽という状態が6月末まで続きました。
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●ツバメはどこに?
P3.jpg平城宮跡に現れないのであれば、別の場所にねぐらがあるのかもしれない。航空写真でヨシ原がありそうな場所を探して、夕方に様子を見に行ったりもしました。その結果、今まで知らなかったねぐらを発見したものの、その規模は数百羽ほど。去年まで平城宮跡に集まっていた万羽のツバメはどこに行ったのか…。このままツバメが集まらなければ、夏の調査はできないのではないかと不安な気持ちを抱えながら、広報のためのチラシ作成や観察会の準備等を進める日々が続きました。

●ツバメが戻ってきた!
そうこうしているうちに7月になると徐々にツバメが平城宮跡に戻ってきました。これで無事に調査期間を迎えられる!終わってみると、調査期間に設定した7月下旬〜8月上旬には例年並みの5〜6万羽のツバメがねぐら入りしました。今年も無事にねぐら入りを観察できてほっとしました。
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●無事に調査終了!
観察会などで調査参加への呼びかけをしたり、バードリサーチさんを始めとしたいろいろな団体や個人の方がメールやSNSで拡散してくださったおかげで、昨年より幅広い層の方にご参加いただけました。自宅付近で毎日定期的に観察したり、お出かけついでに観察したり、新しい観察地点の開拓を試みたりと、たくさんの人がツバメを気にかけて、空を見上げた19日間でした。「この調査をきっかけにツバメが気になるようになった」といううれしい感想を送ってくださる方もあり、メンバー一同喜んでいます。

●ただいま集計中!
最終的に延べ191人から86か所の情報をいただきました。ありがとうございました。
結果はまだ集計中ですが、昨年に引き続き平城宮跡の西側からの飛来は少なそうなこと、奈良中央部の複数個所では昨年たくさんいたツバメが今年は見られなかったことなどがわかってきました。また、狭いエリアで同日に複数人が観察したことで点と点が結ばれて移動ルートが見えてきた場所もありました。集計の結果は昨年同様、地図に落とす予定です。たくさんの参加者のみなさんとツバメとで作った地図からは何が見えてくるのか…。ワクワクしながら集計しています。
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posted by ばーりさ at 16:26| 研究支援(近況報告)

2021年11月19日

近況報告2020≫ 蓮田の防鳥ネット有効性(無効性)の検証、野鳥の羅網死をなくすために

バードリサーチの研究支援プロジェクト(2020)で、皆様からご支援いただいている調査の近況報告が届きました。

日本鳥類保護連盟の境友昭さんによる
蓮田の防鳥ネット有効性(無効性)の検証、野鳥の羅網死をなくすために
です。

蓮田で羅網死している鳥が内側から引っかかっていることから、侵入を防ぐ目的の防鳥ネットが、本来の機能を果たしていないのではないか?そうであれば、ネットの敷設は農家の負担でしかないと考え、主な対象を昼行性のサギ類とオオバンとして、蓮田への侵入経路などの行動と蓮田の対策状況や収穫の段階との関係を調べようと企画された調査研究プランです。(詳細はコチラ

いただいた近況報告をご紹介します!

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蓮田の防鳥ネット有効性(無効性)の検証,野鳥の羅網死をなくすために
境友昭([公財]日本鳥類保護連盟)

[はじめに]
 「防鳥ネットをどう見ているの?」と鳥たちに聞きたいところですが,鳥たちは答えてはくれません。「見ればわかるだろう」というのが,彼らの回答と理解して,まず,鳥たち(ここでは,オオバンとサギ類)の行動を観察するところから始めました。
 この時期(11月)の蓮田の昼間には,主にオオバンとサギ類がいます。サギ類は,防鳥ネットの有無にかかわらず,蓮田で休んだり採餌したりしていますが,オオバンは,防鳥ネットのある蓮田にはあまりいません。防鳥ネットがあってもオオバンが遊泳している蓮田の多くは,隣接する蓮田には防鳥ネットがありません。しかし,羅網する鳥ではオオバンが最も多く,「どうして?」という疑問が湧きます。

[羅網の実態]
 表-1は,前季での,調査区域での鳥種と羅網数の調査結果です。2021年〜2022年は,現在調査中です。さて,この地区では,羅網した鳥のほとんどがオオバンであることがわかります。蓮田で観測された鳥の延べ羽数でも,オオバンが最も多く,次いでサギ類です。この調査は,昼間(日没前1時間から2時間)ですので,夜間に蓮田に出入りするカモ類の侵入数は観察されていません。
 サギ類の羅網は,この地区では1羽のみです。多数のサギ類が蓮田を利用しているにも関わらず,羅網数が少ない,という傾向が見られます。表-2には,蓮田の状況,天井ネットの有無と,蓮田を利用する鳥の関係を示しています。サギ類は,天井ネットがあっても無くても,侵入数に大きな違いはありませんが,オオバンは天井ネット有の場合の120羽に対して天井ネッが無い場合には800羽と,大きな違いがあります。この観察結果から推定すると,昼間のオオバンは,「天井ネットを避けて蓮田を利用している」とすることができそうです。しかし,現実的に天井ネットに羅網するのはオオバンなのです。

表1表2鳥の羅網部位と条件別羅網個体数.jpg

 また,表-2からは,サギ類は,蓮田が未収穫の時から蓮田を利用しますが,オオバンは蓮の葉が枯れて,水面がある程度見えるようになってから蓮田を利用し始め,特に収穫が終了して水面に障害物が無くなってから,蓮田の利用頻度が高くなっていることがわかります。

[いつ羅網するのか]
 図-1は,オオバンの週当たりの羅網数と収穫済みの蓮田の数(3週間移動平均)を示しています。この地区では,収穫は10月と12月に集中しているようですが,オオバンの羅網は,それより約1週間から2週間遅れてピークに達しています。まだ,確定できることではありませんが,オオバンは収穫後に時間を経て蓮田を利用するようになる模様です。
 参考までに,2019年に調査した結果(別地区)を図-2に示しますが,図-1と同様にオオバンは,ハス田の収穫が終わって2週間ほど遅れて蓮田の利用を始めています。図-2は,日没から1時間の間での調査ですが,この時間帯に蓮田に侵入する鳥のほとんどはオオバンです。マガモをはじめとするカモ類は,その後で蓮田に入るようです。いずれにしろ,日没後30分を経過すると,ほぼ宵闇になり,人の肉眼で防鳥ネットを識別することはできません。図-2の調査蓮田には,防鳥ネットはありませんでしたが,オオバンは何の躊躇もなく,蓮田に飛び込んでいました。

図1週間羅網数b.jpg図2蓮田に侵入するカモ類の変遷b.jpg

[オオバンの着水,離水姿勢と羅網のメカニズム]
 オオバンが天井ネットに羅網する部位は,ほとんどが「足」です。カモ類は,翼や首が多いのと対比すると,羅網メカニズムに違いがあるように思われます。そこで,オオバンとカモ類(カルガモ,マガモ)の着水,離水角度について調べてみました。オオバンは,着地・直水する時,写真-1のようにホバリングするような姿勢から,おおよそ60度くらいで着水し,着地の場合はほぼ真上から降下します。これに対してカモ類は,30度前後の角度で着水します。この角度で着地すると,前のめりになって転倒することがあります。ところが,離水する場合には逆で,オオバンは30度以下の角度で水面を蹴りながら離水しますが,カモ類は60度くらいの角度で離水することができます。なお,サギ類は,ほぼ垂直に離陸,着陸します。
この着水,離水角度(姿勢)の違いが羅網部位の違いに関係している可能性があります。オオバンは,夜間の着水時に天井ネットを認識せずに,通常の姿勢で着水を試みるとすると,まず,脚が天井ネットに掛り,そこで減速すると,頭部(胴体)が別の目合いに掛かり,胴体が抜ければ足で羅網する形になると想像されます。これは,内田理恵氏がバードリサーチ調査研究支援プロジェクト「野鳥が羅網しにくい網の研究(2019年)」で指摘している羅網メカニズムと同じです。

写真1オオバンの着水姿勢.jpg
写真-1 オオバンの着水姿勢(ほぼホバリング状態)

 オオバンが,天井ネットを通過して蓮田に侵入を図ったに違いないという証拠が写真-2です。足でも羅網していますが,胴体も網目に掛かっています。胴体が網目を抜けてしまったら,足だけで羅網している状態になると思われます。
オオバンの胴体の周長はおおよそ300mmです。ほぼ垂直に近い角度で天井ネットに向かって降下すると,ネットの目合い(125から150mmメッシュ,周長500〜600mm)が,そのままのサイズの穴となりますので,翼を畳めばそのまま通過できることになります。しかし,運悪く脚と胴体が別々のメッシュに入った場合,羅網事故となるのでしょう。この点,カモ類は,着水角度が小さいので,天井ネットの実効サイズが約1/2(30度で降下する場合)となって,網目を通過することができません。

写真2足と胴体で羅網したオオバン.jpg
写真-2 足と胴体で羅網したオオバン

 オオバンは,離水するとき,水面を蹴るようにして滑走しながら高度を上げていきます。その角度は,15度から30度くらいと低く,完全に離水するまでおおよそ5mから10mほど滑走します。このような離水姿勢では,天井ネットのある蓮田から退避するとしても,サイドネットに衝突することはあっても,天井ネットに衝突する可能性は低いものと思われます。首や翼で羅網したオオバンが少ないのは,このような離水の仕方に関係すると考えられます。一方,カモ類は離水角度が高く,少しの飛行で天井ネットに衝突してしまいます。

[防鳥ネットに対するサギ類の行動]
・天井ネットの下を飛行・通過する
 天井ネットのみでサイドネットが張られていない蓮田では,天井ネットの下を,何事も無いように飛行して,蓮田を通過します。
・前方のサイドネットを避ける
 蓮田からの退避飛行中であっても,前方にサイドネットがあると,転回してネットを避けます。その距離は,おおよそ10〜15mです。
・防鳥ネット,支柱に止まります
 ダイサギ,コサギは,防鳥ネットの支柱やネットを支える支線に止まります。天井ネットに穴があると,そこから蓮田にダイビングする形で侵入することがあります。
・緊急退避中,何度も天井ネットに衝突します
 サギは,ほぼ垂直に離陸します。人影に驚いて蓮田からの退避を図ったコサギは,羽ばたくたびに天井ネットに衝突したり,網目に首を突っ込んだりします。数度繰り返し,やがて安定した水平飛行に移ることもありますが,「学習していない」という感じです。写真-3は,天井ネットの網目に首を突っ込み失速したコサギです(この後無事に蓮田を出ました)。

写真3天井ネットに首をなコサギ.jpg
写真-3 天井ネットに首を突っ込んで失速するコサギ

 サギ類の防鳥ネットへの羅網数は,オオバンやカモ類と比較すると少ないようです。サギ類は,日中に蓮田を利用していますが,夜間は利用しません。サイドネットを避けることから,障害物を目視で認識した場合,基本的にはこれを回避する行動をとるため,羅網の危険性が低いのではないかと考えられます。しかし,緊急退避時に何度も天井ネットに衝突するように,眼の高さより低いところは認識できても,高いところは,視界から外れている可能性があります。サギ類は,天井ネットの孔にダイビングするという特別な行動を除いて,蓮田に近接する通路,畔に着陸し,そこから蓮田に歩いて侵入し,歩いて出たり,サイドネットの無いところから水平飛行で脱出したりします。

[中間報告のまとめ]
 昼間の行動を観察すると,オオバンは防鳥ネットの無い蓮田を利用します。防鳥ネットのある蓮田が隣接している場合には,歩いてその蓮田に入ることもあります。また,オオバンは,比較的広い開放水面のある蓮田を利用します。目的とする水面に急降下するように着水しますので,夜間,もし天井ネッが視認できない場合,天井ネットに衝突し羅網する可能性があります。サギ類は,歩いて蓮田に侵入しますので,天井ネットのみの蓮田では出入り自由です。防鳥ネットが視界に入っている場合には,これを回避する行動をとるようですが,見えない場合(見えないと思われる事例)では,防鳥ネットを回避できず衝突することがあります。
 調査地域での防鳥ネットの敷設率は50%を切っていますが,この状況では,オオバン,サギ類とも蓮田への侵入に障害となる可能性は低いように見えます。夜間に食餌行動をとるオオバンは,蓮田への侵入時に羅網することがありますが,サギ類は昼行性ですので,羅網機会は少ないものと思われます。
posted by ばーりさ at 12:16| 研究支援(近況報告)