2023年03月20日

カワセミの暮らし 笠原里恵著 緑書房

信州大学の笠原さんがカワセミの本を出して,その本を送ってくれました。ありがとうございました。

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知って楽しいカワセミの暮らし
笠原 里恵 (著), 森本 元 (監修)
緑書房
¥2200+税

カワセミの本と言えば,きれいな写真が中心の本をイメージしますが,この本はそれとはちょっと違います。口絵できれいな写真も掲載されていますが,カワセミやその生息地について知りたいと思う人向けの本で,カワセミの生態や食べ物,生息地の川やその変化について,知ることができます。
笠原さんは,カワセミの研究者というよりも川の鳥の研究者という感じの研究者なので,カワセミ以外の河川の鳥や,河川の変化についての情報も充実していて,カワセミにはそれほど興味はないけど,川の鳥について興味があるという人も満足する本と思います。
まだ出たばかりで,書店には並んでいないかもしれませんが,ぜひ見てみて下さい。

posted by ばーりさ at 10:38| 書籍紹介

2023年03月17日

「決定版 見分け方と鳴き声 野鳥図鑑350」発売

世界文化社より、植村が執筆した図鑑が発売されました。

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監修は、日本野鳥の会会長の上田恵介さんです。上田先生からコメントをいただきました。

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『野鳥図鑑350』の監修をさせていただいた上田恵介です。

図鑑の特色は著者の植村さんが書いているので、とくに監修者が付け加える事はないのですが、監修をさせていただいて、とても面白い図鑑になりそうだなという印象を持ちました。それはこれまでの図鑑とはちょっと違った新しい解説、「へえ〜」と思うところがいっぱいあることです。著者が野外で鳥をよくみていて、自分の目で見た知識が随所に反映されているというのが伝わってきます。また近年の分類学や生態学的な最新の知見を、著者が多くの研究論文を読んで、解説に反映させているからです。巷には多くの図鑑が並んでいますが、この『野鳥図鑑350』はどの図鑑にも書かれているような一般的なことがらはあまり書かれていないユニークな図鑑です。楽しみながら読める図鑑だと思います。

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さて、以下では著者の私から、今回の図鑑の特色を紹介します。

l  最新の調査研究の成果を満載しました
2016
年から2021年にかけてバードリサーチが事務局となって日本野鳥の会などと一緒に実施した全国鳥類繁殖分布調査の結果や、モニタリングサイト1000の調査などでわかってきた成果を盛り込んでいます。この20年ほどの間にはいろいろな鳥で分布や個体数の増減があり、少し前の図鑑と見比べると印象が違うかもしれません。350種という限られた種数ですが、近年南西諸島で記録が増えているオニカッコウや、瀬戸内側などで記録が増えているハッカチョウなどは掲載種に挙げました。

l  バードリサーチの「鳴き声図鑑」とリンクしています
鳴き声図鑑は最近もどんどん掲載種、掲載音声が増えています。スマホのカメラなどを図鑑のQRコードにかざしてページを開くとその鳥の鳴き声を聞くことができます。

l  最新の分類を採用しています
日本鳥学会から出版予定の日本鳥類目録改訂第8版で予定されている変更点を反映した、最新の分類を使用しています。改訂第8版の出版は20239月に延期されたのでフライング的になってしまいましたが、鳥学通信などを参考に採用する分類を検討しました。ヤマガラからオリイガラが独立していたり、オオトラツグミをミナミトラツグミの亜種として掲載していたり、サンショウクイとリュウキュウサンショウクイが別種に分かれていたりします(※これまでの亜種サンショウクイは第8版では種ウスサンショウクイとなりそうですが、この図鑑の初版では反映できませんでした。改訂時に変更すると思います)。

l  興味深い生態を満載しました
特に力を入れて執筆したのはこの点です。掲載種ごとに論文をあたり、最新の研究成果を参照しました。他の図鑑に書かれていない興味深い行動や生態系の中での役割などを盛り込めたのではと思います。また反対に、現在とは違った鳥との関わりが伺えるかなり古い本からの情報も少し盛り込みました。バードリサーチの生態図鑑も大いに参考にしました。改めて思いましたが、種ごとに研究者の皆さんが執筆している生態図鑑の情報量はものすごいです。

l  写真の掲載方法にも特色
上の項目の通り、興味深い生態に本文の紙幅をさいたので、識別についての記述は相対的に少なくなりました。多くの種で、写真と本文の横にある数文のみの特徴記述に識別ポイントの説明を任せる分、見せ方にもこだわりました(写真の選定については編集者にお任せして私はコメントをしただけですが)。一般に鳥はオスの方が鮮やかな羽色をしていることが多く、図鑑では、見栄えのする鮮やかなオスや夏羽の写真が使われることが多くあります。しかし、ぱっと見で特徴がわかりにくい羽衣こそ大きく掲載することが重要です。そこで、雌雄で見た目が違う種は雌雄とも掲載し、できるだけ雌雄は同じ大きさで掲載してもらいました。種によっては、メスや冬羽の写真を大きく掲載してもらえたものもあります。


ページ例(クリックで拡大表示)

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ぜひ多くの方にご覧いただければと思います!

https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/22206.html


posted by ばーりさ at 10:25| 書籍紹介

2022年11月17日

図書紹介:シャルル・ボナパルトの時代 籠島恵介著 税別1400円

SNSで拝見し、購入しようと思っていたら、著者の籠島さんから事務所に寄贈いただいてしまいました。ありがとうございます。
なので、さっそく拝読させていただきました。皆さまにもご紹介します。

本書では、今日の鳥類学の礎を築いた鳥類学者の一人、シャルル・ボナパルトの人生を軸に、彼が生きた時代を、時代の主役と言えるナポレオンの視点ではなく、家族からの視点で描き、鳥類学に貢献した多くの人物とシャルルの交流が記されています。アメリカで大規模な参加型調査(その中でも僕は、Christmas Bird Count が好きです)を実施しているオーデュボン協会の名前の由来である画家のオーデュボンとシャルルの邂逅も出てきます。
今日では調査器材も解析手法も高度化が進み、当時はできなかったことがたくさんできるようになりましたし、日々分類も見直されるようになっています。
それでも、全ての研究は、シャルルの時代から続く博物学の上に成り立っている。その時代を思い浮かべながら、新しい鳥を発見して、記載して、命名するわくわくを本書を読みながら追体験するのは心地良かったですし、技術の高度化によって僕らの視野が狭くなっていることにも気付かされました。

さいごに、日本鳥類目録第7版に記載のある鳥のうち、シャルルが学名を命名した鳥を籠島さんの著書のコラムからご紹介します。アシナガシギ、ハリオシギ、イワツバメ、クロアゴヒメアオバト、アカガシラサギ、ミズカキチドリ、ルリカケス、計7種。イワツバメも、なんですね!

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シャルル・ボナパルトの時代 −ナポレオンの甥に生まれた鳥類学者−
籠島恵介著/つむぎ書房
1,400円(税別)
ISBN 978-4-910692-58-6
https://tsumugi-shobo.com/book162/
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posted by ばーりさ at 18:14| 書籍紹介

2022年09月19日

伊豆沼・内沼研究報告16巻

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表記書籍をご寄贈いただきました。ありがとうございました。
伊豆沼・内沼を中心とした平野部の湿地に関する調査研究の成果を掲載する論文誌です。水草から水生生物,鳥まで様々な研究が掲載されていて,今回は,鳥では岩手のカワウの状況が掲載されていて,バードリサーチのカワウの東北での保護管理には役立ちそうです。

J-stageを通して,どなたでも読むことができます。興味のある方は見てみてください。
posted by ばーりさ at 09:37| 書籍紹介

2022年07月27日

図書紹介:野生動物の法獣医学 もの言わぬ死体の叫び その2

その1から続く

■ トラップにかかったイワツバメ

もうひとつ紹介したいのは、中部地方の浄水場の汚泥処理施設で2年連続で大量のイワツバメの死骸が見つかった事件です。なぜ、イワツバメたちは死んだのでしょうか?イワツバメたちのお腹には粘度の高い汚泥が付着していました。上述した皮下脂肪の状態は中程度で問題はなく、外傷もありませんでした。しかし、急性の肺出血、消化管内の汚泥物充満と腸管壁浮腫がみられ、肝臓退色が確認されました。ほかにも皮膚や肺、気管支などに細菌感染が認められました。以上のことから、イワツバメたちは汚泥にはまったあと、泥を飲んでしまい、気道病変や傷口からの細菌感染、脱出を試みたことでの体力の消耗、雨水による体温低下などが加わって衰弱死したと判断され、死因は特定されました。

ですが、なぜ、この2年に限ってイワツバメの大量死が起きたのでしょうか?ご存知のようにイワツバメは泥を使って巣を作ります。どちらの年も大量死が起きる2日ほど前に暴風雨があったことから、著者は川の増水によって河原などでの泥の採取ができなくなったイワツバメたちが浄水場の泥をみつけてやってきたのではないかと推理しました。汚泥処理施設では、泥成分の沈殿を促進するため、ポリ塩化アルミニウムなどの凝集剤を入れているので、その効果で泥の粘度が高くなっているそうです。このために、羽に泥が付着すると飛び立てなくなってしまうということのようでした。それ以降、この施設では汚泥処理プールに多めの水を残すことで泥が表面に出ないようにする対策が取られたとのことでした。汚泥処理施設で大量死、なんていうと、何か悪い毒物でも、といったことを想像しがちですが、死体の剖検から原因を求めていくことで、鳥の生態と人の生活と災害との接点に行きつく展開にはたくさんの学びがありました。

進化は淘汰(死)によって紡がれてくるものです。ですが、彼らの進化の過程には、窓ガラスも汚泥処理施設も存在していませんでした。鳥たちがこれから、窓ガラスを回避したり、ぶつかっても平気な力を獲得していくかというと、可能性は低そうですが・・・。人為環境に生きる鳥たちの生態や行動、人側の取り組みに今後も注目していきたいと思います。

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野生動物の法獣医学 もの言わぬ死体の叫び
著:浅川満彦/緑書房
1,800円(税別)
四六判 256
ISBN978-4-8052-0957-8
http://www.chijinshokan.co.jp/Books/ISBN978-4-8052-0957-8.htm
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余談

我が家は最近クマネズミの侵入を許していて、あれこれ対策をしているのですが、この本を読んで、殺鼠剤の成分やそれがネズミやその他の生きものにどういう症状をもたらすのか、物事の裏側を知ることができて、とてもスッキリしました。ネズミ捕り用の粘着シートを屋外に設置し、かかったネズミを襲った猛禽がシートから離れられなくなって、著者のところに運び込まれた顛末には驚きました。あのシートはかなり強力で、かかったクマネズミを解放してやろうと思って格闘し、にっちもさっちもいかず断念したこともある私には、著者が神様に思えました。救出するために使ったのが食用油と小麦粉。口に入っても大丈夫なものを選んでいるところに著者の生きものに対する愛情を感じました。


posted by ばーりさ at 16:13| 書籍紹介