2020年06月17日

飛べる鳥と飛べない鳥はどこが違う? −クイナ科の形態を比較−


クイナ➁.jpg ヤンバルクイナ➁.JPG

飛べるクイナ()と飛べないヤンバルクイナ()

鳥類は飛ぶために「大きな翼や発達した胸筋とそれを支える骨、左右非対称の初列風切羽が必要になる」事を以前、ニュースレターで紹介しましたが、この特徴は、ヤンバルクイナのように飛べる鳥から飛べなくなり様に進化した場合、消えてしまうのでしょうか。今回は飛べないクイナ科と飛べるクイナ科を比較した研究を紹介し、飛べなくなるとそのような形態変化が起こるのかを紹介します。



捕食者がいないと飛ばなくなる進化が起こる

鳥は飛ぶことでハワイ諸島やガラパゴス諸島など、一度も他の大陸とつながった事のない海洋島にも分布を拡げる事ができます。そういった島では哺乳類などの天敵がいない事が多く、飛べることによるメリットが小さくなり、飛ばなくなる進化が起きる事があります(Olson 1973、樋口1996)。日本で唯一飛べない鳥であるヤンバルクイナが属するクイナ科は全部で130種以上おり、そのうちの30種以上が飛べません(Gaspar et al. 2020)。飛べる種と飛べない種両方で構成されている分類群の中では、最も飛べない種が多い分類群です。



飛べないクイナ科は翼が短く、胸部の筋肉と骨も小さい

75種のクイナ科の体長や翼の長さ、胸骨の大きさなどを比較した結果、飛べない種は飛べる種より相対的に翼と胸骨が小さい事が分かりました(図1)(Gaspar et al. 2020)。飛べないクイナ科は飛べるクイナ科よりも翼や胸部の筋肉や骨が発達していないようです。また、ヤンバルクイナはクイナと比べると、体の大きさに対して翼は短く、胸部の筋肉量は小さいです(Kuroda 1993)。飛翔を可能にする筋肉や骨の維持にはエネルギーが必要であるため、孤島のような餌資源に乏しい脆弱な環境では、維持するのが大変です。維持のコストを減らして、孤島での生活に適応したと考えられています(樋口1996)

翼長ー体重.jpg 胸骨の深さ-体重.jpg

図1.飛べるクイナと飛べないクイナの体重に対する翼の長さの比率(左)と体重に対する胸骨の厚さの比率(右)。データはGaspar et al.2020)より。


初列風切羽の形は左右対称?

初列風切羽はどうなのでしょうか?飛べる鳥は初列風切羽が左右非対称で、飛べない鳥は左右対称に近い形をしていると言われており、クイナ科の中にもニュージーランドクイナやマメクロクイナはほぼ左右対称の形をしています (FeducciaTordoff 1979McGowan 1989、樋口1996)。しかし初列風切羽が左右非対称の形をした飛べないクイナ科も9種以上います (wang et al. 2017)。なぜ、クイナは種によって異なるのでしょうか。筋肉や骨と違って、左右非対称の風切羽は必ずしも維持に多くのコストがかからないのかもしれません。その場合、飛べなくなっても形状は変化しない可能性があります。ニュージーランドクイナやマメクロクイナは左右対称になったのは、たまたまそのような進化が起きて現在に至っているのかもしれません。しかし、鳥全体で見たとき、飛べる鳥の方が飛べない鳥よりも左右非対称に比率は高い傾向にあるので(Speakman & Thomson 1994)、飛べないクイナは飛べるクイナと比べると左右非対称の形をしているものの、左右対称に近い形をしているのかもしれません。残念ながらクイナ科だけの比較で数十種以上のデータを用いた研究は見つかりませんでした。クイナ科同士で比較した場合どのような結果になるのでしょうか、気になるところです。



脚部は発達している

飛べないクイナ科は翼や胸部が小さい一方で、体重は重く、大腿骨と骨盤の幅は広い傾向にあるようです(Gaspar et al. 2020)。またヤンバルクイナの胸筋はクイナと比較して小さいと先ほど説明しましたが、脚部の筋肉量は胸部の5倍以上あります。クイナの場合ですと約1.2倍です。飛べなくなった分足を使うことが増え、これによって脚部の発達に影響を与えたと考察されています(Kuroda 1993)



まとめ

今回は飛べないクイナ科は翼や胸部の筋肉と骨が小さく、飛べる種とは違うという事、初列風切羽は左右非対称の形をしている種も複数いて、飛べる種と似ている可能性がある事、脚部は非常に発達しているという事を紹介しました。翼や脚の大きさであれば外見からでもわかるかもしれません。もしヤンバルクイナなど飛べないクイナ科を観察できるチャンスがありましたらぜひ確認してみてください。



参考文献

Feduccia A & Tordoff RH (1979) Feathers of Archaeopteryx: Asymmetric vanes indicate aerodynamic function. Science 203:1021-1022.

Gaspar J, Gibb C G & Trewick A S (2020) Convergent morphological responses to loss of flight in rails (Aves: Rallidae). Ecology and Evolution. doi: 10.1002/ece3.6298 

樋口広芳 (1996) 飛べない鳥の謎鳥の生態と進化をめぐる15章 平凡社 278pp

McGowan C (1989) Feather structure in flightless birds and its bearing on the question of the origin of feathers. Journal of Zoology 218: 537 - 547

Nagahisa Kuroda 1993 Morpho-anatomy of the Okinawa Rail Rallus okinawae J. Yamashina Inst. Ornithol.25:12-27

Olson S L (1973) Evolution of the rails of the South Atlantic Islands (Aves: Rallidae). Smithsonian Contributions to Zoology 152: 53pp

Speakman JR, Thomson SC (1994) Flight capabilities of Archaeopteryx. Nature 370:514.

Wang X, Nudds L R, Palmer C & Dyke J D (2017) Primary feather vane asymmetry should not be used to predict the flight capabilities of feathered fossils. Science Bulletin 62 : 1227-1228





posted by ばーりさ at 15:36| 論文・記事

2017年12月20日

今年は10件!支援先の調査や研究の概要をニュースレターでご紹介

バードリサーチでは、毎年、皆さまからのご寄付と投票をもとに、調査や研究の支援をしています。今年度も今日からご支援の受付を開始し、A4用紙2枚にまとめた調査・研究プランをWebで公開しました。これを読んでいただければ、それぞれの調査者や研究者が、どんな目的で、どんなことにチャレンジしようと計画しているのか、わかっていただけると思います。
 ただ、じっくり読むには結構な分量です。今年度は10件あるので、昨年度の倍です。そこで、どんな調査や研究のプランがあるのか、簡単にポイントがわかるよう、ニュースレターに紹介記事を書きました。紹介記事を読んでいただいて、その中に気になるものがありましたら、個別のプランをじっくり読んで、ご支援のご検討を頂けるとうれしいです。どうぞよろしくお願いします。

バードリサーチニュース2017年12月: 4

調査研究支援プロジェクトのページ


Screenshot-2017-12-20 今年は10件!支援先が決定しました。 バードリサーチニュース.png


posted by ばーりさ at 20:12| 論文・記事

2017年11月02日

都市河川の鳥類についての論文も日本鳥学会誌に掲載

河川が都市の鳥に与える影響についての論文も掲載されました。
繁殖期は上流ほど記録種数が多いけど,越冬期は下流ほど多いと,逆転しているのがちょっと面白い結果でした。河川が都市にあたえる影響という観点では,住宅地と河川の比較ではなくて,「河川に近い住宅地」と「近くに河川のない住宅地」とを比べた方がよりよかったかな,と思いました。


中川優奈・三上かつら・三上 修(2017)河川が都市の鳥類多様性に与える影響:函館市亀田川の事例.日本鳥学会誌 66(2): 133-143.

近年,都市の鳥類多様性に関する注目が高まってきている.河川は鳥類の群集構造に大きな影響を与えうる環境であるにもかかわらず,都市の鳥類多様性にどのような影響を与えるのか,定量的に評価された例は少ない.そこで本研究では,函館市内を流れる亀田川において,上流から下流にかけて,およそ1kmごとに河川付近に調査地点を設定し,それぞれの地点で見られる鳥の種数と個体数を,繁殖期と越冬期の2つの時期で調査した.ここから,上流下流のどこで種数が多いのか,それらが季節によって異なるのかを検証した.調査の結果,河川沿いと住宅地では,繁殖期,越冬期ともに,河川沿いの方が有意に種数が多かった.このことは亀田川のような河川の存在が都市の鳥類の種の多様性を高めていることを示している.河川沿いにおける種数は,繁殖期には上流ほど種数が多いのに対し,越冬期では逆に下流の方で種数が多かった.これは繁殖期にはカッコウをはじめとした山に近い上流側の環境で繁殖する鳥が多く見られたのに対し,冬季はカモ類が流れの緩やかな下流の環境を利用したためと考えられた.このような種数の多さが季節によって逆転するということは,面積の影響が強くでる孤立した緑地と河川では都市の生物多様性に与える影響が異なっている可能性を示している.

posted by ばーりさ at 11:29| 論文・記事

アマサギの衛星追跡の論文が日本鳥学会誌に掲載されました(植田)

10年前のバードリサーチ設立すぐに行なったアマサギの衛星追跡の論文が掲載されました。茨城から追跡したアマサギが,翌繁殖期に翌春に中国揚子江河口周辺へ移動したのが面白いところです。越冬地から中国に行く群れについて行ってしまったのかもしれないですけど。

藤田剛・土方直哉・内田 聖・平岡恵美子・徳永幸彦・植田睦之・高木憲太郎・時田賢一・樋口広芳(2017)東アジアにおけるアマサギ2個体を対象とした長距離移動の衛星追跡.日本鳥学会誌 66(2): 163-168.

 アマサギは人に運ばれることなく急速に分布拡大した例とされるが,分散や渡りなど長距離移動には不明な点が多い.筆者らは,茨城県で捕獲されたアマサギ 2 羽の長距離移動を,太陽電池式の人工衛星用送信器を使って追跡した.2 羽とも,捕獲した 2006 年の秋にフィリピン中部へ移動して越冬したが,その内 1 羽が翌春に中国揚子江河口周辺へ移動し,繁殖期のあいだそこに滞在した.そこは,前年繁殖地とした可能性の高い茨城県から 1,900 km 西に位置する.この結果は,東アジアに生息するアマサギにおいて長距離の繁殖分散を確認した初めての例である.
posted by ばーりさ at 09:07| 論文・記事

2016年08月08日

Strix Vol. 32 にイソヒヨドリの論文(奴賀)

Strix Vol.32がでました。
この中で、イソヒヨドリの繁殖生態について報告しました。

奴賀俊光・Christopher Paul Norman・森川由隆. 2016. 千葉県鴨川市におけるイソヒヨドリMonticola solitariusの繁殖生態. Strix 32: 169-178.

これまで島や海岸沿いでよく見かけたイソヒヨドリが、最近は内陸の都市部などでも頻繁に目撃されるようになり、分布の動向が注目されています。しかし、日本でのイソヒヨドリの論文はほとんどありません。
イソヒヨドリに注目している方も増えてきていますので、この論文が何かのお役に立てればと思います。

その他、Vol.32ではカンムリウミスズメ特集など、いろいろな論文が掲載されています。
目次はこちら

strix32.jpg


posted by ばーりさ at 19:59| 論文・記事