2020年07月27日

日本鳥類図譜(守屋)

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昨年、お亡くなりになった写真家の久保敬親さんの写真集をいただきました。
環境別に約200種類の野鳥の写真が掲載されていて、種ごとに解説がついています。監修は樋口広芳先生、解説は柴田佳秀さんです。
生態の写真も多く、一種一種に時間をかけて撮影されたことが伝わります。

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コラムにバードリサーチが関わっているモニタリングサイト1000の事を紹介していただきました。
(調査風景の写真を提供しました)

近頃、フィールド図鑑をよく見ていたので、大きな写真は迫力があって細部まで眺めてしまいますね。
雨も多く、遠征もしにくい状況なので、ゆっくりと家中でバードウォッチングでもいかがでしょうか。


『日本鳥類図譜』
久保 敬親 (写真), 樋口 広芳 (監修), 柴田 佳秀 (解説), 
単行本: 304ページ
出版社: 山と渓谷社 (2020/6/17発行)
定価: 4200円+税

posted by ばーりさ at 16:46| 書籍紹介

2020年07月25日

モニタリングデータの個体数変化を分析する統計ソフトTRIM(rtrim)の使い方

TRIM(TRends & Indice for Monitoring data)はヨーロッパ全体の鳥類繁殖分布調査(PECBMS, Pan-European Common Bird Monitoring Scheme)で使用されている個体数変化解析用のプログラムです。

長期に続くモニタリング調査では毎回全ての地点で調査ができない場合がありますが、TRIMはそうした欠損値を補完して個体数の変化傾向を有意水準付で判定してくれます。(PECBMSソフトウエアhttps://pecbms.info/methods/software/)。

TRIMは当初、Windowsアプリケーションとして公開されていましたが、その後、統計言語Rのパッケージ版になった「rtrim」が公開されました。rtrimはWindows版よりきれいなグラフが描けるし、Windows版で面倒だった欠損記録を「-1」で埋める事前準備が必要がない(例えば2000年の調査がなければ、2000年の行を消しておけばよい)など機能が高まっている反面、Rの知識が必要なので、取っつきにくくなったかもしれません。この記事ではrtrimでどのくらいデータの補間をできるかのテストと、簡単な使い方を紹介します。記事で使ったデータはタブ区切り形式のファイルでダウンロードできます。

TRIMは欠損データを推定できる
TRIMは、ある地点の個体数は地点の特性と調査した年(年に限らず日でも月でも)の特性に基づくと考えて推定を行います。「個体数が多い地点は毎年多いはずだし、全体の個体数が多い年はさらに多いだろう、だから今年この場所は調査してないけど、このくらいの個体数がいるはずだ」というような理屈で計算してくれているようです。では、TRIMがどのくらいデータの欠損を補完できるのかテストしてみましょう。

テストには「毎年一度の調査が行われていて、全地点で個体数が増加を続けている」という極端な仮想のデータを使用します。下図はTRIMが出力したグラフと、生データのグラフです。この場合はTRIMの推定値と生データは同じになります。[使用データ trimtest.txt
trim-test1.png
図左のTRIMグラフで、折れ線は各年の個体数合計の推定値、垂直線は推定値の95%信頼区間、赤線は個体数変化の回帰曲線、灰色の帯は回帰曲線の95%信頼区間を示している。

つぎに、データから10%の記録を間引きました。生データはガタガタしますが、TRIMの推定値はあまり変化していません。[使用データ trimtest_10per_del.txt
trim-test2.png

さらに、20%の記録を間引きしました。これでも、TRIMの推定はほとんど影響がありません。[使用データ trimtest_20per_del.txt
trim-test3.png

なお、テストで間引いた生データのグラフはガタガタになりましたが、それでも近似直線を引けば個体数が増加傾向であることは分かりそうです。すべての調査地で数が増加するという極端なデータなので、多少間引きをしても全体傾向はそれほど分かりにくくならなかったようです。

実際のハクチョウ記録でテスト
モニタリング調査では、初めのころは調査地が少なかったのが、しだいに調査地が増えてくるということがよくあります。こういうケースで、例えば総個体数が増えている場合には、野鳥が増えたからなのか、それとも調査地が増えたからなのかが分かりにくくなってしまいます。

それをTRIMがどう計算してくれるのか、実際の宮城県のハクチョウのデータを使ってテストしました。環境省のガンカモ類の生息調査からある条件で調査地を抽出し、そこにいた「オオハクチョウ+コハクチョウ」の個体数変化をTRIMと生データで比較しています。

はじめに、欠損のないデータのグラフを下図の左列に示します。TRIMと生データのグラフは同じような形で、緩やかな減少傾向があるように見えます。[使用データ hakucho_original.txt]。つぎに、何カ所かの調査地で初期の頃の年の記録をバッサリ削除し、途中から新調査地が増えた状態を模したデータのグラフを右列に示します。右列下段の生データのグラフでは初期の頃の個体数が下がり、経年変化は実際とは逆に増加傾向に見えます。一方、右列上段のTRIM推定値グラフは欠損のないデータと変わらない傾向を示しています。[使用データ hakucho_shoki_sakujo.txt

オオハクチョウ3.png
単純合計したグラフでは増減傾向が逆になってしまいました。

以上のように、TRIMは欠損データがあっても正確な個体数傾向を推定してくれることが分かりました。

rtrimの使い方
この記事で紹介したグラフは、統計言語Rを使って数行のプログラムで作成することができます。Rの基本操作は説明しませんが、いろんなホームページに載っていますので、そちらを参考にしてください。
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library(rtrim) # rtrimパッケージの読込
library(readr) # read_delim関数を使うために必要

hakucho <- read_delim("hakucho_original.txt", delim="\t") # 上記の白鳥データを読み込みます。

trim.results <- trim(count ~ site + year, data = hakucho, model=2, changepoints="all", serialcor=TRUE, overdisp=TRUE) # trimを実行します [※]

slope <- overall(trim.results) # slopeには傾き、増減判定、P値などが格納されます。

plot(slope) # グラフを描きます。

[※]
model:
 1 「No Time-Effects」通常は使用しません。
 2「Time Effects (Effect for each time-point)」調査を行った全ての年を用いて分析を行います。最も基本的な方法です。
 3「Liner Trend」Time Effectsで分析が実行できなかった場合や、大きな変化があった年を探索したい時などに使用します。
changepoints:大きな変化があった年が分かっていれば指定します。通常はすべての年を選択するので「all」.
serialcor:Serial correlation(自己相関)。ある年の野鳥の数は近隣の年の数に近くなるので「TRUE」。
overdisp:Overdispersion (過分散)。ポアソン分布からの逸脱の程度です。野鳥のカウントでは過分散は高くなる可能性があるので「TRUE」。

この記事ではrtrimパッケージの使い方を説明しましたが、旧Windows版TRIMの日本語解説とアプリケーションがこちらのページでダウンロードできます。解説資料では計算の仕組みやアウトプットの読み取り方を説明していて、その内容はrtrimになっても変わりありませんので、参考にしてください。

2009年10月のバードリサーチニュースにもTRIMの記事を掲載しています。
http://www.bird-research.jp/1_newsletter/index2009.html

(神山和夫)
posted by ばーりさ at 11:23| その他

2020年07月21日

カワウのフンからエサを解明するためのフン採取に行きました!(植村)

鳥が何を食べているかを調べたいとき、どんな方法があるでしょうか?

一番わかりやすいのは、鳥がエサを食べる瞬間を直接観察することですね。

このほかに、ペレットなどの吐き戻しを調べたり、
胃内容物を調べたり、
窒素や炭素の安定同位体比から推定したり、
フンを観察したり、などという方法があります。

さらに最近では、フンの中に残っているエサ生物のDNAを解析することで、
フンの主が何を食べたかを知る という方法が使われるようになってきました。

この方法では、ペレットなどに残りにくい柔らかい組織しかないエサ生物も検出できたり、食性を調べるために対象種を解剖して胃内容を調べたりしなくても、落ちているフンを採取してDNA解析を行えばエサの内容がわかります!

この方法を使ってカワウの食性を調べてみようということで、カワウのフンのサンプリングに行ってきました!

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カワウのフンや吐き戻しを浴びないようにカッパを着て、カワウのコロニーの下でフンを探します。
カワウのコロニーに近づくと、魚臭い独特のにおいが漂ってきます。
この時期にカッパを着て歩き回るのはさぞかし暑かろうと思っていましたが、調査中は曇りの日が多く、気楽に採取をできました。

コロニーの下には、フンの他にも吐き戻した魚やザリガニなどが落ちています。
(カワウは慌てて飛び立つ時に体を軽くするため、胃の中のものを吐き戻すことがあります。)


個体数や営巣数の多いコロニーでは、フンはすぐに見つかりました。
写真右側の灰色のかたまりをすくい、チューブに保存します。
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採取しているところ
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無事に採取できたら冷蔵で保管し、解析をお願いする会社に送付します。

今回採取した一部のねぐらでは、胃内容や吐き戻しをつかった食性解析がされているので、DNA解析からわかるエサの種類と、胃内容や吐き戻しからわかっているエサの種類を比較することができます。

どんな結果が返ってくるのか楽しみです!


バードリサーチでは、7月17日のYouTubeライブ配信でカワウの特集をしました。
長年カワウの調査をしてこられた嘱託研究員の加藤ななえさんが、カワウの食性や繁殖、移動範囲、生息状況の変化について詳しくお話しました。
この配信を観ればカワウ博士になれるといえるほど盛りだくさんの内容で、
思いがけずカワウに親近感がわくこと間違いなしです!

ぜひご覧ください!




posted by ばーりさ at 18:50| 活動報告

2020年07月18日

中央公園調査報告

今日も小雨が降る梅雨空。
今年は晴れ間を忘れてしまうほど雨続きです。
公園の鳥たちもだいぶ減ってきました。

この時期、うるさく鳴き交わすのはオナガとシジュウカラ。
親鳥と同じくらいの大きさのシジュウカラのヒナたち。
しきりに餌をねだっていました。

一方、公園と畑の縁には今日もオナガの家族群。
ひと際大きな声で親鳥に餌をねだっていました。
こちらも、親鳥と同じくらいの大きさになっていました。
でも黒いベレー帽はまだごま塩状態でした。
おそらくシラカシの巣で育った兄弟たちでしょう。

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    (大きくなったオナガの巣立ちビナ)

池の周りには先週巣立ちしたササゴイのヒナたちが飛び回っていました。
まだ頭部にはダウンがついていました。
親鳥を見つけると餌をねだって追いかける姿も…。

今繁殖期は、昨年よりさらにつがい数が減りました。
一時は10つがい前後が営巣したのに、今年は3つがいのみ。
それでも2巣から合計9羽のヒナが巣立ちました。
雌の姿がないので、もうセカンドの繁殖に入っているのかもしれません。

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      (雨の中親鳥を待つササゴイの巣立ちビナ)

若鳥たちが活発に動き回る公園。
でも今年はカルガモのヒナがほとんどみられません。
6月上旬に1家族6羽のヒナが1日だけ記録されただけです。

植栽の状況は例年通り変わっていません。
最近は頻繁にブロアを使って園内を清掃しています。
大きな音に驚いて巣を放棄してしまったのでしょうか。
気になります。

参加者3名 記録種13種 記録個体数64羽
次回は7月25日、6時からです。マスク着用でご参加ください。
担当:BR平野



posted by ばーりさ at 12:14| みにクル報告(宇都宮)

2020年07月16日

手賀沼周辺で調査をしてきました(山崎・佐藤)

7月から8月にかけて、行政からの依頼で、千葉県内で鳥類調査を実施する事になりました。調査期間が短いので、早めに調査したかったのですが、ずっと天気がすぐれなかったので、多少、天気が悪くても、実施すべく、手賀沼へと向かいました。

手賀沼は千葉県にある湖沼で、探鳥地としても有名ですが、下手賀沼という手賀川で結ばれている小さな湖沼もあります。元々この一帯は全て手賀沼でしたが、一部を水田に改変したことにより、現在の形になったそうです。今回はこの一帯を調査してきました。

手賀沼周辺.jpg

この日の天気は雨で長袖を着ていないと肌寒く、7月とは思えない気温でした。早朝、手賀沼は雨だけでなく、少し霧もかかっていました。更に、現在は新型コロナ対策でマスクを着用しながら調査しましたが、自分の息で双眼鏡のレンズが曇ってしまい、観察するのがより一層難しくなりました

そんな状況でしたが、泳いでいるオオバンやカイツブリと飛んでいるツバメやコアジサシなどを記録することができました。また、公園の緑地ではハシボソガラスの若い個体を観察しました。巣立ったばかりなのか、まだ親に餌をねだっているようなそぶりをしていました。

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手賀川と下手賀沼の周辺は田んぼになっており、ダイサギやアオサギが採餌をしていました。セッカやオオヨシキリのさえずりも聴こえてきます。この日はその他にもコブハクチョウやカルガモ、カワラヒワ、ヒバリ、セグロセキレイなど30種以上記録することができました。


雨が降っている日はこれまで調査も観察もしていませんでしたが、実際に調査をしてみるとたくさんの種を記録することができて意外でした。しかし、雨が降っていない日であれば、もっと活発に飛び回っている鳥を観察することができたのかもしれません。


今月、九州や中部地方が豪雨による大きな被害を受けたと聞いております。被害に遭われた皆様には心よりお見舞い申し上げます。また、1日も早い復興と穏やかな日々が戻ってくることをお祈り申し上げます。

posted by ばーりさ at 17:43| 活動報告