昨日公開したコジュケイについてのニュースレターの記事でも少し紹介しましたが,東京都では樹林性の鳥が増加し,分布を拡大しています(植田・佐藤 2018)。
ただ,それらの種の中でも,コゲラのように増加速度の鈍ったものも,メジロのように徐々に増加しているもの,そして,ヤマガラやアオゲラのように近年急激に増加しているものなど,パターンが違うことがわかっています。
図1 各種鳥類の1970年代からの分布拡大の状況
パッと見,より森林性の高いものが最近になって増加しているように見えますが,実際のところはどうなんでしょうか? そこで,各種の森林性の高さの指標として生息している緑地の面積を使い,検討してみました。
ぼくは,春のあいだは毎朝,ツミを探して,国分寺から府中にかけての緑地を巡っています。そしてツミだけでなく,観察できた鳥を バードリサーチの野鳥記録データベース「フィールドノート」に登録しています。今回はその記録を抽出して各種鳥類の生息の有無とその緑地の面積(Googleマップで計算)について,ロジスティクス回帰で検討してみました。それが図2です。当てはまりのよい種とそうでない種がいますね。
図2 各種鳥類の出現の有無と森林面積のロジスティック回帰
あてはまりの悪い種の1つがアオゲラです。大きな樹林をもつ緑地にはだいたいいるのですが,いない緑地があったり,逆にずいぶん小さな樹林面積でもいる緑地があります。これはアオゲラの行動圏が広いことに起因していそうです。行動圏が広いので,樹林1つに行動圏が完結していなく,近くに樹林があれば,小さな樹林も利用しているのでこのような結果になったのかもしれません。解析対象は樹林面積よりも,その地域の樹林の総面積とかの方が良かったのかもしれません。また行動圏が広いので,逆にいてもたまたま出会わないなんてこともあり得て,大きな緑地でも確認できなかったところがあるのかもしれません。
もう1つあてはまりの悪かったのがガビチョウです。大きな樹林2か所で生息していなかったため,あてはまりが悪くなりました。この2か所の緑地は調査地の北側のJR中央線より北側の調査地でした。ガビチョウはご存知の通り外来種で,現在絶賛分布拡大中の種です。この地域では調査地より南側を流れる多摩川の河畔林から分布を拡大させています。そのため,まだ,調査地の北側まで分布拡大の流れが達していないのではないかと思われます。
こうした問題もあるのですが,このロジスティック回帰を使って,各種鳥類の生息確率が50%(図の青線)を超える樹林面積と近年の増加度合との関係を見てみました。
図3 最近の増加度合と,森林鳥類指標との関係
1点(エナガ)を除きいい感じに樹林性の高い種ほど,最近になって分布を拡大させているという傾向が見られました。エナガは群れ生活をする種です。オナガもそうですが,群れ生活をする種は,単独のようにポンポンポンと分布を拡大させず,じわじわ広がっていく傾向があります。そのため,樹林性がそれほど高くないにもかかわらず,近年になって分布を拡大したという結果になったのかもしれません。
今回,東京都繁殖分布調査の結果でこうした結果が見られましたので,全国繁殖分布調査の結果ではどうか,あるいはほかの都市では,どうなのかについて気にしながら見ていきたいと思います。
2020年05月01日
森林性度合いの違いと東京での分布拡大タイミングの関係
posted by ばーりさ at 14:40| 活動報告